2019年10月1日より消費税が8%から10%へと引き上げられることが予定されています。
消費者の立場からすれば余計な支出を抑えたいですから、
「増税前の駆け込み需要」や「物価の変動」
といったキーワードには敏感になりますよね。
ところで私たちの人生において、大きな買い物といえば「家の購入」です。
家の購入にも消費税の増税が関わってくるのですが、
そもそも増税前に駆け込みで家を購入したほうが良いのでしょうか?
それとも焦らずに様子を見たほうが良いのでしょうか?
大きな買い物ですから失敗はしたくないですよね。
そこで今回は『増税前に家を購入するべきか』というテーマで、
お二人の専門家にさまざまな疑問をぶつけてみました。
その対談の様子を全3回に分けてお送りいたします。
(※記事内容は、2018年10月10日時点の情報です。)
〈座談会メンバー〉
・嶌田 竜也(しまだ たつや)さん:
不動産トラブルバスター。プロフィールはこちら
・脇田 弥輝(わきた みき)さん:
税理士。プロフィールはこちら
・伊藤 遼(いとう りょう)さん:
システムエンジニア。今回はブログ読者代表として参加。
・安 紗弥香(やす さやか):
社会保険労務士。今回はファシリテーターとして参加。
プロフィールはこちら
〈質問内容〉
座談会にあたり、伊藤さんから5つの質問をいただきました。
これらの質問に専門家が回答していくスタイルで、お送りします!
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①不動産購入ってスーパーでお肉買うのとは色々システムが違うイメージですが、そもそも消費税率と不動産ってどれくらい関係しているんですか?
②ローン組んだりするなら、途中で税率変わると計算が複雑になりそうな気が…。頭金増やした方がお得になったりするんでしょうか?
③賃貸保証に対しても消費税は関係するんですか?
④賃貸物件として購入した場合、税率が変わると家賃も上がりそうですが、入居者探しの観点では、税率が上がる前後で有利/不利が変わるんでしょうか?
⑤内装等にかかる費用は税率が関係しそうです。その点で、税率が上がる前に購入した方が良いんでしょうか?
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今回は、
①不動産購入ってスーパーでお肉買うのとは色々システムが違うイメージですが、そもそも消費税率と不動産ってどれくらい関係しているんですか?
についてお送りします。
消費税増税前に知っておきたい「経過措置」
安(ファシリテーター):
こんにちは。
本日の対談は『増税前に家を購入すべきか』というテーマで、
不動産トラブルバスターの嶌田竜也さんと
税理士の脇田弥輝さんというお二人の専門家に、
読者代表・伊藤遼さんからの質問にお答えいただく形で進めていきたいと思います。
伊藤(システムエンジニア):
まず最初の質問です。
不動産の購入はスーパーでお肉を買う場合に比べ、
いろいろとシステムが違うイメージがあります。
そもそも消費税率の変動と不動産はどのように関係しているのでしょうか?
脇田(税理士):
不動産購入とスーパーでお肉を買う場合の違いは2つあります。
まず一つ目が「金額」です。
当然ですが不動産は金額が大きいので
「ちょっと間違えて買ってしまった」では済まないですよね。
そこに消費税8%から10%に上がると、2%分の金額差が出てきます。
この差は大きいですよね。
そこで皆さん増税前に早く買わないといけないと思っているのではないでしょうか。
二つ目の違いは「契約」です。
不動産購入はまず契約があって、そこから引き渡しという流れになります。
お肉の場合はスーパーでお金を払えば、その場でお肉を持ち帰ることができますが、
家を買う場合は「今日すぐにこの家を買います」という話にはならないのが一般的です。
この不動産の引き渡しと消費税に関して知っておいて欲しいのが
「経過措置」です。
これは2014年に消費税が5%から8%に上がったときにも同様の措置が取られました。
どういうことかと言いますと、
不動産は原則的に引き渡した日が買った日になりますので、
今回の増税だと引き渡しが2019年10月1日を過ぎたら消費税は10%になってしまうんです。
ところが、この「経過措置」というのは6ヶ月前の指定日、
つまり3月31日までに契約が終わっていれば引き渡しが10月1日の増税後であっても、増税前の8%で良いという措置になります。
もちろん契約が3月31日より後であっても、
引き渡しが10月1日より前であれば消費税は8%のままです。
まとめますと不動産(家)の消費税率が10%になるのは、
「契約が指定日(3月31日)より後で、かつ引き渡しが10月1日より後になった場合」となります。
不動産が売れれば政治家が潤う?
嶌田(不動産トラブルバスター):
不動産コンサルタントとしては、
トラブルになりやすいことを2つお伝えしたいと思います。
まず一つ目は脇田先生もおっしゃったように
「いつ買ったのか、いつ決めたのかというのが正しい判断なのか」ということ。
ここは大きな焦点になってくるでしょう。
ところで契約を4月1日までに行ったのに、その年の10月1日まで
なぜこんなに時間がかかるのかというところにも少し注目してほしいと思います。
普通、中古のマンションであれば売買契約をしてから1ヶ月から1ヶ月半後には引き渡しになりますよね。
経過措置の期間が4月1日から10月1日まで半年間空いているのは、
新築で一戸建ての注文住宅を建てる場合です。
工務店やハウスメーカーと
いつ「工事を貴社にお願いします」という契約を交わしたかによって、
経過措置が適用されるか否かが決まるというわけです。
ちなみに、この時点で土地の購入が決まっていなくても、
土地を持っていなくても構いません。
二つ目が「不動産売買は日本経済に直結している」
という考え方が必要になるということです。
伊藤さんの質問に「システム」という言葉が出てきましたが、
不動産売買におけるシステムには税金だけでなくドロドロとした大人の事情、
もっと言えば政治が絡んでくるのです。
例えば国会で消費税を上げる・上げないという話題はよく出ますし、
選挙のたびに消費税についての話が挙げられますよね。
一番大きな例が、麻生太郎氏の掲げた過去最大の住宅ローン控除。
実は政治家というのはこうやって選挙の票を獲得しようとしているわけです。
そう考えると税金と選挙、政治と経済が深く関係しているということが分かりますよね。
先ほどの経過措置の話の中で出てきた
「土地を買って新築一戸建てを建てる」場合を例に、
政治と経済と不動産の関係についてお話しましょう。
まず土地を買います。
土地を買ったお金は売主さんに入りますが、仲介手数料という形で不動産会社にも入ります。
土地を買っただけでは意味がないので、家の設計という形で設計士さんやハウスメーカー、工務店にもお金が入ります。
設計だけでは家は建ちませんので部材を集めるための貿易業、部材を作る製造業や運搬する運送業にもお金が入ります。
さらに運んできた部材を組み立てる職人さん、引っ越しに必要な運送業や引っ越し屋さん、もっと言えば新居に必要な家電製品や、カーテンやソファなどの家具にもお金が支払われます。
単に個人で家を建てるだけでも、実はこんなにも経済に関わりを持っているんです。
実は政治の席というのは、
経済をどこまで上げることができたかによって評価がよくなるんです。
だから株価や為替の話を毎日していますよね。
本当に見てほしいのは「政治が回っているかどうか」なので、
還元や法人税という形で見てほしいのです。
もっと深い話をしますと、国の中のお金はイコール国の経済力です。
外国にお金が逃げると言い表すこともありますが、
実を言うと国際関係というのはお金の取り合いなんです。
これが国力ですね。
だから不動産を回すと、その国のGDPが上がるという話になり、
政治家にとっては自分の食い扶持になるわけです。
この辺りを大人の事情と言っています。
そもそも不動産業の始まりは財閥系から出発していますから、
政治が関わらない訳がないんですね。
関わっているものが違うのだから、
スーパーでお肉を買うのとはシステムが全く違うということです。
経過措置が適用される場合とされない場合
脇田:
最初にお話した指定日についての補足ですが、これは注文住宅の場合です。
また注文住宅でなくても、例えばドアの形状や壁の色を変更できる場合も適用されます。
ドアも壁も完全にできあがっていて、何も自分で選べない場合には指定日は関係なく、
引き渡しが10月以降になれば消費税は10%になります。
伊藤:
そもそも、契約というのは何の契約なのですか?
脇田:
売買の契約ですね。
これは土地でも建物でも当てはまります。
ただ後ほどお話しますが、土地には消費税がかからないので土地自体はいつ買っても変わりません。
土地には消費されるという考え方がないんですね。
だから家を買うんです。
マンションの場合も、実は土地部分と建物部分とがあり、
建物部分にのみ消費税がかかります。
伊藤:
新築マンションの場合はどうなりますか?
脇田:
先ほど補足をしたとおり、
キッチンの形状や壁の色など
少しでも注文を付けることができるなら指定日についての話が適用されますが、
そうでない場合は契約がいくら指定日より前でも、
引き渡しが10月を過ぎてしまうと消費税が10%になってしまいます。
嶌田:
新築マンションだと1年前から募集を開始してしまうところの契約が
どうなってくるかも知っておいたほうが良いかもしれませんね。
脇田:
それはキッチンの形状や壁の色を選べなければもうダメだということですよね?
選べないのってありますか?
嶌田:
この辺りは抽選の時期に結構左右されるのかと思います。
あとはオプションを付けることができるのかできないのか、
その契約がどこで決められているのかも大切だと思います。
脇田:
あとは、指定日より後に「9月中に引き渡します」という契約をしていた場合でも、
何らかの理由で引き渡しが遅れて10月になってしまう可能性もあります。
そうすると消費税が10%になってしまうので、
その場合はどうするか事前に聞いておいたほうが良いかもしれません。
そうなった場合はどちらが支払うかみたいなことを決めておかないといけないということですね。
(第2回に続きます!)