こんにちは!
税理士の脇田みきです。
毎日溶けそうに暑いですが、お元気でしょうか?
今日は、実際にあった事件をもとに、洗脳された人がした行為にも税金はかかるのか、人を救うためにつく嘘はいけないのか、など考えてみましょう。
あまり身の回りに起こる事件ではないと思いますが、もしも、こんな人がいたら税金を納めるべきか免除されるべきか…どう思いますか?
税金を納めるべき?免除されるべき?
事件は約10年前、平成20年頃に始まります。
被害女性Aさんは離婚をきっかけに人生に思い悩み、女性誌に載っていた広告を見て占い師に電話相談しました。
その一本の電話からAさんの人生は悲劇へと向かうのです。
Aさんは占い師にマインドコントロールされ、自分が占い師に借金があると思い込み、その返済のため占い師に指示されるがままに、風俗店で1日中休む間もなく働きました。
ろくな食事も与えられず体重は激減、水道・電気なども止められて、風俗店の同僚がくれるものでなんとかしのぐ日々。
そして風俗店での日当を、日々現金で占い師にそのまま渡しました。2年半にわたり、大晦日も元旦もお盆も雨も雪も台風も関係なく働きました。2年半の間にとった休みは半日休暇をたった4回。もはや奴隷のようです。
そうして総額約1億円を占い師に搾取されました。
この事件が発覚した当初、Aさんはどうしても自分がマインドコントロールされてるとは信じられず、何を言われても占い師のことを信じていました。
この洗脳から目を覚まさせたのは誰だと思いますか?
…実は、国税局の女性調査担当者でした。
この事件、普通に読んだら加害者は占い師、被害者はAさんです。民事裁判でもそのように判断されました。
でもそれはそれとして、国税局の女性調査担当者はAさんを説得して洗脳から目覚めさせ、Aさんの人生を救い……そして国税局は女性に対し巨額の課税をしました。
実際の課税額はわかりませんが、
3年間(平成23~25年)で1億円の収入、平均すると年間3,300万円の収入です。
ほとんど経費がなく、所得控除を引いたとしても3,000万円くらい所得があったと推定すると
所得税は各年約920万円、3年間で約2,760万円と考えられます。
(あくまで想像です)
え?なんでAさんから税金取るの?って思いますよね。私もそう思います。可哀そうじゃないですか、Aさん、被害者ですよ。国税局なに考えてるの。
でもちょっと考えてみてください。
もし私が税理士として日々死ぬほど働いて、食事もままならず体重激減、そうして稼いだ総額1億円を、全部イケメンホストに貢いでいたらどうでしょうか?
甘い言葉にまんまとだまされたのです。いや、だまされたとは最後まで思いたくない、私は彼を信じてる…
この場合、ホストに貢いだのは私の勝手であって、1億円稼いだ事実に対しては、ちゃんと納税しないといけないかもって思いませんか?
人が稼いで納税することと、稼いだお金をどこに使うかはまた別問題なんですね。
もちろん、私がもしAさんに依頼されていたら、なんとかして救ってあげたいと思います。事実、この事件の税理士は異議申し立てしましたが、却下されました。
ただ、先述した通り、民事訴訟には勝ち、占い師に1億円の返金が命じられました。
ちなみに判決までに3年かかっています。
納税するまでの間、Aさんに対して延滞税や加算税は発生していたと思います。
課税の調査方法って正当?不当?
さて、ここでもう一つ、別の論点があります。
最初の女性調査官は、Aさんをなんとか救ってあげたく洗脳から目覚めさせたかったのでしょう。
「あなたは占い師にだまされてるんですよ」と言っても「そんなことはありません」と言って、きちんと事実を話してくれません。占い師をかばうからです。
そこで、女性調査官は
「あなたには課税はされませんよ」
「占い師からお金が戻ってきたら納税してくれればいい。戻ってこなかったら占い師が課税されますから」
「正直に答えてくださいね。この金額で占い師に請求する金額も決まってきますから」
とかなんとか、事実とは違うことを言いました。
私は、この女性調査官がAさんを「だました」わけではないと思います。とにかくAさんを洗脳から目を覚まさせたい一心で、救うための嘘だったと思います。
そしてAさんはこの調査官の必死の説得により、洗脳から解放され、正直に話し始めました。Aさんは調査官にとても感謝しています。
でも事実を話し、色々進んでいくうち、結局「占い師からお金が戻ってくるかこないかは関係なく、Aさんに課税されます」てなるわけです。Aさんびっくりですよ。
納税しようにもその時点では全然お金ありませんし、困ってしまいます。
そこで税理士に依頼し、異議申立したんですね。「この課税はおかしいじゃないか」っていう。異議の理由はいくつかありますが、その一つが「調査方法が不当だ」というものでした。
「あなたには課税されませんよ」って言ったから正直に話したのに…と。でも結局、「質問応答記録書にはそのような記載はない」といって却下されてしまいました。
結局、その後、民事裁判で占い師に1億円の返金が命じられたので、Aさんはその返金されたお金の中から納税をし、今はひっそりと暮らしているそうです。
弁護士は刑事告訴するようすすめましたが、Aさんはもう忘れたいからと刑事告訴はしなかったので、占い師は刑事上は罪に問われていません。
いかがでしたか?
この記事は、占い師やホストという職業を悪くいうものでは決してありません。正しい占い師も素敵なホストもいます。
ただ、人は時に弱いものです。法律だけでは語りつくせないことがあるんだな~、とちょっと税の世界に興味を持っていただけたら嬉しいです。